電子のスピン

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はじめに

電子のスピンは、量子力学の授業の後半に学ぶが、実際は1923年のド・ブロイの物質波や1926年のシュレディンガー方程式が発見されるよりも前、量子力学のかなり初期の段階で発見されている。
1913年にボーア(Bohr)は、原子のスペクトル線系列を、電子が特定のエネルギー状態の軌道しか持てないとして説明したが、よく見ると原子のスペクトル線はいくつかの接近した線にわかれており、単純な電子のエネルギー状態だけでは説明出来ないことがわかった。この原因として、1919年にゾンマーフェルト(Sommerfeld)とランデ(Lande)は原子核の自転による磁場の効果(ゼーマン効果)を導入し、1925年にウーレンベック(Uhlenbeck)とゴーズミット(Goudsmit)が自転の効果は、原子核ではなく電子の自転によるものとしてスピンを発表した。

スピンの固有値

角運動量演算子からスピンの演算子\(\hat{\boldsymbol{S}}\)を考える。エネルギー準位が2つに分かれていたので、スピンの固有値は2つになる。ところが、方位量子数\(l\)と磁気量子数\(m\)は整数で、その関係は
$$l\geq|m|$$
なので、\(l\)が1であっても\(m\)は-1、0、1の3つになり、
$$L_z=m\hbar$$
であるから、固有値も3つになってしまう。そこで、スピンの場合は整数であることを諦め、半整数1/2を導入し、\(l\)は1/2で\(m\)は-1/2、1/2の2つになると考えられた。\(m\)が0を除いているのは、\(L_z\)が\(\hbar\)単位の値となる条件(つまり\(m\)は1づつ増減する)があるためである。あらためて\(\hat{S}_z\)の固有値は、
$$S_z=\pm\frac{\hbar}{2}$$
となる。方位量子数\(l\)と磁気量子数\(m\)が整数ではないので、波動関数は球面調和関数ではない。整数であったのは、1周して波動関数が繋がるイメージであり、半整数になると2周して繋がるイメージになる。したがって、電子は実際に自転しているのではなく、よくわからないまま、スピンという内部自由度を持っていると考えられた。

スピンの固有関数

スピンを含めた電子の波動関数を考えると、スピンは新たな自由度として認識されるため、\(\boldsymbol{x}\)や\(t\)と同様に
$$\psi(\boldsymbol{x},t,\boldsymbol{s})=\psi_1(\boldsymbol{x})\psi_2(t)\psi_3(\boldsymbol{s})$$
と変数毎の積の形で表せる筈である。2つしか固有値を持たないので、スピンの固有関数は、
\begin{eqnarray}
|\uparrow\rangle&=&\begin{pmatrix}1\\0\end{pmatrix}\\
|\downarrow\rangle&=&\begin{pmatrix}0\\1\end{pmatrix}
\end{eqnarray}
のように書くことができる。また、\(\psi_3\)を規格化(2乗して1になるように)して書くと
$$\psi_3(\boldsymbol{S})=\frac{1}{\sqrt{2}}|\uparrow\rangle+\frac{1}{\sqrt{2}}|\downarrow\rangle$$
となる。

スピンの演算子

スピンの演算子\(\hat{\boldsymbol{S}}(\hat{S}_x,\hat{S}_y,\hat{S}_z)\)を考える。\(\hat{S}_z\)は、スピンの固有関数と固有値の関係から
$$\hat{S}_z=\frac{\hbar}{2}\begin{pmatrix}1&0\\0&-1\end{pmatrix}$$
となる。実際に固有値を求めてみると
$$\begin{eqnarray}
\hat{S}_z|\uparrow\rangle&=&\frac{\hbar}{2}\begin{pmatrix}1&0\\0&-1\end{pmatrix}\begin{pmatrix}1\\0\end{pmatrix}=\frac{1}{2}\hbar\\
\hat{S}_z|\downarrow\rangle&=&\frac{\hbar}{2}\begin{pmatrix}1&0\\0&-1\end{pmatrix}\begin{pmatrix}0\\1\end{pmatrix}=-\frac{1}{2}\hbar
\end{eqnarray}$$
となる。\(\hat{S}_x\)と\(\hat{S}_y\)は、角運動量の昇降演算子から考える。昇降演算子は、
$$\hat{L}_\pm|l,m\rangle=\hbar\sqrt{l(l+1)-m(m\pm1)}|l,m+1\rangle$$
であったので、スピンの昇降演算子\(\hat{S}_\pm\)は、\(l\)に1/2、\(m\)にスピン上向きのときは1/2、下向きのときは-1/2を代入すると、
\begin{eqnarray}
\hat{S}_+|\downarrow\rangle&=&\hbar\sqrt{\frac{1}{2}\left(\frac{1}{2}+1\right)-\cdot-\frac{1}{2}\left(-\frac{1}{2}+1\right)}|\uparrow\rangle\\
&=&\hbar|\uparrow\rangle\\
\hat{S}_-|\uparrow\rangle&=&\hbar\sqrt{\frac{1}{2}\left(\frac{1}{2}+1\right)-\frac{1}{2}\left(\frac{1}{2}-1\right)}|\downarrow\rangle\\
&=&\hbar|\downarrow\rangle\\
\hat{S}_+|\uparrow\rangle&=&\hbar\sqrt{\frac{1}{2}\left(\frac{1}{2}+1\right)-\frac{1}{2}\left(\frac{1}{2}+1\right)}|\downarrow\rangle\\
&=&0\\
\hat{S}_-|\downarrow\rangle&=&\hbar\sqrt{\frac{1}{2}\left(\frac{1}{2}+1\right)-\cdot-\frac{1}{2}\left(-\frac{1}{2}-1\right)}|\uparrow\rangle\\
&=&0
\end{eqnarray}
となるから、
\begin{eqnarray}
\hat{S}_+&=&\begin{pmatrix}0&\hbar\\0&0\end{pmatrix}\\
\hat{S}_-&=&\begin{pmatrix}0&0\\\hbar&0\end{pmatrix}
\end{eqnarray}
となる。昇降演算子の定義
\begin{eqnarray}
\hat{S}_+&=&\hat{S}_x+i\hat{S}_y\\
\hat{S}_-&=&\hat{S}_x-i\hat{S}_y
\end{eqnarray}
を逆に解いて、先程求めた\(\hat{S}_+\)、\(\hat{S}_-\)を代入すると、
\begin{eqnarray}
\hat{S}_x&=&\frac{1}{2}(\hat{S}_++\hat{S}_-)=\frac{\hbar}{2}\begin{pmatrix}0&1\\1&0\end{pmatrix}\\
\hat{S}_y&=&\frac{1}{2i}(\hat{S}_+-\hat{S}_-)=\frac{\hbar}{2}\begin{pmatrix}0&-i\\i&0\end{pmatrix}
\end{eqnarray}
となる。

パウリ行列

パウリ行列\(\boldsymbol{\sigma}(\sigma_x,\sigma_y,\sigma_z)\)は、スピン演算子を使って
$$\hat{\boldsymbol{S}}=\frac{\hbar}{2}\boldsymbol{\sigma}$$
と定義される。したがって、
$$\boxed{\begin{eqnarray}
\sigma_x&=&\begin{pmatrix}0&1\\1&0\end{pmatrix}\\
\sigma_y&=&\begin{pmatrix}0&-i\\i&0\end{pmatrix}\\
\sigma_z&=&\begin{pmatrix}1&0\\0&-1\end{pmatrix}
\end{eqnarray}}$$
となる。

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