熱力学の全体像がわかるように、歴史と基本的な事項を簡単にまとめます。統計力学との違いを明確にするため、分子を仮定しないで、熱と物質の状態だけで考えます。
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熱力学の歴史
1769年、ワットが蒸気機関を発明する。1787年、シャルルの法則が発見され、既に発見されていたボイルの法則と合わせて気体の状態方程式ができる。1824年、カルノーは、カルノーサイクルの考察により、蒸気機関の動作の発生源は、蒸気の量なども重要だが、温度の高低差がより本質であることを発見し、それが物質に寄らないことを示した。1845年、ジュールは、有名な羽根車の実験で、熱量と仕事が変換できることを発見し、熱の仕事当量を求めた。

1850年、クラウジウスは、カルノーとジュールの仕事を定式化してまとめた。それまで、熱は熱素と呼ばれる物質と信じられていたが、熱はエネルギーの一形態であり(熱力学第1法則)、高温から低温に一方向に流れる(熱力学第2法則)とした。1865年には、熱力学第2法則にエントロピーの概念を追加した。熱力学の法則を一般化し、『宇宙全体のエネルギーは保存され、時間が経つと温度が均一になる』と考えた。その後、既知の事象であったが、マクスウェルにより、熱力学第0法則が追加された。
熱力学第0法則
温度が一定で、巨視的な変化が無い状態を熱平衡と言う。熱力学では、基本は熱平衡の状態を扱う。接触している物体Aと物体Bが熱平衡であり、物体Bと物体Cも熱平衡であれば、物体Aと物体Cも熱平衡となる。これを熱力学第0法則と言う。この経験的性質により温度が定義でき、熱平衡なら同じ温度と言える。
熱力学第1法則
熱力学第1法則
系の内部エネルギーを\(U\)、系が外部から受け取る熱量を\(Q\)、系が外部に行う仕事を\(W\)とすると、
$$\boxed{dU=\delta Q-\delta W}$$
が成り立つ。これを熱力学第1法則と言い、エネルギー保存則となっている。微分記号が異なるのは、後述する状態量と過程量の区別のためである。また、熱機関のピストンの断面積を\(S\)、ピストンの移動距離を\(L\)とすると、
$$W=\int FdL=\int \frac{F}{S} d(L\cdot S)=\int PdV$$
となり、
$$\boxed{\delta W=PdV}$$
の関係がある。
熱の仕事当量
熱量と仕事は単位が異なるので、換算する必要がある。\(W=QJ\)の係数\(J\)を熱の仕事当量と言い、\(J=4.1855[\mathrm{J/cal}]\)である。
熱と温度
熱はエネルギーの移動によってのみ定義され、物質の状態では決まらないことに注意する。例えば、同じ量、圧力の同じ物質であれば、100℃から20℃で失う熱量と80℃から0℃で失う熱量は同じになる。したがって、物質がどのくらいのエネルギーや温度を持っているとは言えるが、どのくらいの仕事や熱量を持っているとは言えない。
状態量
熱量や仕事は変化の過程で決まるので過程量と言い、内部エネルギーは、物質の状態で決まるので状態量と言う。状態方程式の変数である圧力\(P\)、体積\(V\)、気体の量(分子数)\(n\)、温度\(T\)も状態量である。熱機関のピストンで考えると、サイクルを一周して戻ってきた時に、状態量は同じ状態なので増減は0となるが、過程量は熱量と仕事で変換されるので増減は0にならない。
熱力学第2法則
カルノーサイクル
理想的な仮定
カルノーサイクルは、効率が最大となる熱機関である。実際の蒸気機関やエンジンとは異なる理論的なサイクルで、以下の理想的な条件を仮定する。①変化は常に熱平衡状態で行われ、可逆過程となる。これを準静的過程と言う。(実際は、熱平衡状態のまま変化させるには無限の時間がかかり不可能)②温度が一定で熱容量が無限大の物質を熱浴と言う。熱浴は、温度が\(T_H,T_L\)の2種類を用意し、\(T_H\gt T_L\)となる。
グラフの見方

カルノーサイクルは次の工程を表している。
- 1→2(等温膨張)熱浴から熱を加えることで、気体の圧力で気体を膨張させる。温度は常に\(T_H\)
- 2→3(断熱膨張)断熱するが、気体の圧力で膨張を続ける。温度は\(T_L\)まで下がる
- 3→4(等温圧縮)熱浴に熱を逃がしながら、外部の力で気体を圧縮させる。温度は常に\(T_L\)
- 4→1(断熱圧縮)断熱するが、外部の力で圧縮を続ける。温度は\(T_H\)まで上がる
取り出せる仕事
カルノーサイクルから取り出せる仕事は、
$$W=\int PdV$$
より、グラフの1→3の下部の面積から3→1の下部の面積を引いた1→2→3→1で囲まれた部分の面積となる。もし断熱過程が無く、等温過程だけでは、可逆過程なのでグラフを往復するだけで仕事を取り出すことはできない。熱浴から熱を加えてピストンを動かしても、また同じだけの熱を逃がしながら力を加えてピストンを戻すだけとなってしまう。逆に言えば、仕事を取り出すには温度差が必要となる。ちなみにグラフは、『等温過程より断熱過程は急激に圧力が変化する』が、これは、当時の実験データから導出された結果で、ポアソンの法則と言う。物理的には、例えば膨張過程では、熱を加えていない断熱膨張は、熱を加えている等温膨張と比べて、同じ膨張でも圧力がより下がるのは自然だと言える。
熱効率
カルノーサイクルの熱効率が最大となる理由は、準静的過程にある。現実は、無駄な放熱やピストンの摩擦など不可逆過程が発生してしまうが、可逆過程では、加えた(もしくは逃がした)熱がすべてピストンの仕事となる。したがって、加えた熱量を\(Q_H\gt 0\)、逃がした熱量を\(Q_L\lt 0\)(教科書では\(Q_L\)の符号が逆の場合が多い)とすると、
$$W=Q_H+Q_L=Q_H-|Q_L|$$
であるから、カルノーサイクルの熱効率\(\eta_0\)は、
$$\eta_0=\frac{W}{Q_H}=1+\frac{Q_L}{Q_H}=1-\frac{|Q_L|}{Q_H}$$
となる。\(\eta_0\lt 1\)であり、\(Q_H\)と\(Q_L\)だけの関数だから熱効率は作業物質によらないことがわかる。また、不可逆機関の熱効率\(\eta\)を考えると、\(W\lt Q_H+Q_L\)となるため、
$$\eta\lt\eta_0$$
となる。不可逆機関は可逆機関と比べて熱効率は小さい。これをカルノーの定理と言う。
熱容量
熱容量と比熱
物質の温度を1℃上げる熱量を熱容量\(C\)と言い、
$$C=\frac{dQ}{dT}$$
と定義される。また、物質1gあたりの熱容量を比熱、1molあたりの熱容量をモル比熱と言う。比熱は物質によって値が異なる。
定積熱容量
体積が一定のとき、熱力学第1法則は\(dU=\delta Q\)となるので、両辺を\(dT\)で割って熱容量を考えると、定積熱容量\(C_V\)は、
$$\boxed{C_V=\left(\frac{\partial U}{\partial T}\right)_V}$$
となる。定積熱容量は、定積過程に関わらず成り立ち、物質が1℃あたりどのくらいの内部エネルギーを持つかを表す状態量であり、定積過程の熱容量に一致する。
エンタルピー
エンタルピー\(H\)を
$$\boxed{H=U+PV}$$
と定義する。エンタルピーは、その定義式と熱力学第1法則を比べると、熱量を状態量で表した量だとわかる。ちょうどエネルギーと仕事の関係に似ていて、エンタルピーの増減分が熱量となる。熱量を表す状態量が温度(もしくは内部エネルギー)だけでないのは、同じ量の物質なら、同じ温度でも圧力や体積が大きい方が熱量をたくさん持っているからである。
定圧熱容量
圧力が一定のとき、熱力学第1法則\(\delta Q=dU+PdV\)を考える。\(P\)は定数であるから、両辺を\(dT\)で割って熱容量を考えると、定圧熱容量\(C_P\)は、
$$C_P=\frac{\partial U}{\partial T}+\frac{PdV}{dT}$$
となり、
$$\boxed{C_P=\left(\frac{\partial H}{\partial T}\right)_P}$$
となる。定圧熱容量は、定圧過程に関わらず成り立ち、定圧熱容量は、物質が1℃あたりどのくらいのエンタルピーを持つかを表す状態量であり、定圧過程の熱容量に一致する。
マイヤーの関係式
圧力が一定のとき、理想気体の状態方程式は\(PdV=nRdT\)となるので、定圧熱容量\(C_P\)は、
$$C_P=\frac{\partial U}{\partial T}+nR$$
となり、
$$\boxed{C_P=C_V+nR}$$
となる。この理想気体で成り立つ\(C_V\)と\(C_P\)の関係式をマイヤーの関係式と言う。
理想気体のカルノーサイクル
等温過程
等温過程では、温度が一定のため、理想気体の状態方程式は、
$$PV=C_{等温}(一定)$$
となる。
断熱過程
断熱過程では、熱量の出入りがないので、熱力学第1法則は\(dU=-PdV\)となり、定積熱容量\(dU=C_VdT\)を代入し、両辺に\(nR\)を掛けると、\(C_VnRdT=-nRPdV\)となる。微分した理想気体の状態方程式\(d(PV)=VdP+PdV=nRdT\)を代入すると、\(C_VVdP=-(C_V+nR)PdV=-C_PPdV\)となる。ここで、定積熱容量と定圧熱容量の比を、\(\gamma=C_P/C_V\)とおくと、
$$\gamma\frac{1}{V}dV=-\frac{1}{P}dP$$
となり、両辺を積分すると、
$$\gamma\log V=-\log P+C$$
となるので、
$$\log PV^\gamma=C$$
となる。したがって、断熱過程は、
$$PV^\gamma=C_{断熱}(一定)$$
となり、\(P\)と\(V^\gamma\)は反比例であることがわかる。ここで、等温過程と断熱過程のグラフの傾きを考えると、等温過程の傾きは、
$$\frac{dP}{dV}=\frac{d}{dV}\frac{C_{等温}}{V}=-\frac{C_{等温}}{V^2}=-\frac{P}{V}$$
となり、断熱過程の傾きは、
$$\frac{dP}{dV}=\frac{d}{dV}\frac{C_{断熱}}{V^\gamma}=-\gamma\frac{C_{断熱}}{V^{\gamma+1}}=-\gamma\frac{P}{V}$$
となる。\(\gamma\)は、
$$\gamma=\frac{C_P}{C_V}=\frac{C_V+nR}{C_V}=1+\frac{nR}{C_V}\gt 1$$
であるから、同じ圧力、体積である状態(カルノーサイクルの各点)で2つの傾きを比較すると、等温過程よりも断熱過程の方がグラフの傾きが大きく、急激に圧力が変化することがわかる。
熱量と温度の関係式
カルノーサイクルの断熱過程の前後を比較すると、
\begin{eqnarray}
P_2V_2^\gamma&=&P_3V_3^\gamma\\
P_4V_4^\gamma&=&P_1V_1^\gamma
\end{eqnarray}
となる。状態方程式より、断熱過程の\(P\)を消去すると、
\begin{eqnarray}
T_HV_2^{\gamma-1}&=&T_LV_3^{\gamma-1}\\
T_LV_4^{\gamma-1}&=&T_HV_1^{\gamma-1}
\end{eqnarray}
となるので、
$$\frac{V_2}{V_1}=\frac{V_3}{V_4}$$
と言える。次に等温過程の熱量を考えると、カルノーサイクルでは熱量はすべて仕事に変換されるのだから、
\begin{eqnarray}
Q_H&=&\int_{V_1}^{V_2} PdV=nRT_H\int_{V_1}^{V_2}\frac{1}{V}dV=nRT_H[\log V]_{V_1}^{V_2}=nRT_H\log\frac{V_2}{V_1}\\
Q_L&=&\int_{V_3}^{V_4} PdV=-nRT_L\int_{V_4}^{V_3}\frac{1}{V}dV=-nRT_L[\log V]_{V_4}^{V_3}=-nRT_L\log\frac{V_3}{V_4}
\end{eqnarray}
となる。したがって、熱量と温度の関係式は、
$$\frac{Q_L}{Q_H}=-\frac{T_L}{T_H}$$
となり、カルノーサイクルの熱効率は、あらためて、
$$\eta_0=1+\frac{Q_L}{Q_H}=1-\frac{T_L}{T_H}$$
と温度だけの式で書ける。但し、ここで言う温度は、理想気体の状態方程式を使って考えたので、理想気体温度となっている。
熱力学的温度
1848年、ケルビン卿(トムソン)は、カルノーサイクルの理想気体における温度と熱量の関係式を使って、あらめて理想気体を使わない温度の定義を考えた。基準の温度を\(T_0\)とするとき、任意の温度\(T_n\)を
$$T_n=-\frac{Q_n}{Q_0}T_0$$
とした。これを熱力学的温度と言う。\(Q_0\)と\(T_0\)を固定して考えると、熱量\(Q_n\)と温度\(T_n\)は比例し、理想気体温度と同じ値になるよう定義される。カルノーサイクルの効率は、作業物質によらず、移動する熱量の比だけで決まるのだから、カルノーサイクルの効率がわかれば、基準の温度から任意の温度を求めることができる。
エントロピー
エントロピー\(S\)を
$$dS=\frac{\delta Q}{T}$$
と定義し、\(T\)は定数とする。エントロピーは、その定義式より、ある温度を維持するのに必要な1度あたりの熱量だとわかる。(エントロピーの次元は熱容量と同じだが意味は異なる。また、分子を仮定しないで考えているので、熱力学で”乱雑さ”は出てこない)断熱過程では、熱量の出入りが無いためエントロピーは0となり、等温過程では、熱量と温度の関係式が成り立つ。したがって、
$$\oint dS=\frac{Q_H}{T_H}+\frac{Q_L}{T_L}=0$$
となる。サイクルを一周して増減が0なので、エントロピーは状態量だとわかる。ただし、この定義式でわかるのはエントロピーの差分であり、絶対値はわからない。また、可逆過程でないと成り立たない。より一般的なエントロピーの定義は、統計力学で考える。
クラジウスの不等式
不可逆過機関の熱効率は可逆機関の熱効率よりも低いので、「温度で表した可逆機関の熱効率」と「その温度で実際にやり取りする熱量で表した不可逆機関の熱効率」を比較すると、
$$1+\frac{Q_L}{Q_H}\lt 1-\frac{T_L}{T_H}$$
となる。したがって、
$$\oint \frac{\delta Q}{T}=\frac{Q_H}{T_H}+\frac{Q_L}{T_L}\lt 0$$
となり、これをクラジウスの不等式と言う。ただし、今は不可逆過程で考えているので、この不等式はエントロピーを表していないし、状態量でもない。
熱力学第二法則
状態Aから状態Bに不可逆過程で変化し、状態Bから状態Aは可逆過程で変化する熱機関を考える。クラジウスの不等式より、
$$\int_A^B \frac{\delta Q}{T}+\int_B^A \frac{\delta Q}{T}\lt 0$$
となる。第2項は可逆過程だからエントロピーとして計算できるので、
$$S(B)-S(A)\gt\int_A^B \frac{\delta Q}{T}$$
となり、
$$dS\gt\frac{\delta Q}{T}$$
となる。ここで、不可逆過程を断熱過程とすると、可逆過程は断熱過程とはならない。なぜなら、不可逆過程が断熱過程なら右辺は\(\delta Q=0\)で0となるが、もし可逆過程も断熱過程なら左辺も0となってしまい不等式が成り立たない。例えば、不可逆過程で断熱膨張すると、膨張による仕事のほかにロスが生まれるので、可逆過程で同じだけ仕事して圧縮しても元と同じ状態には戻らず、ロスした分の熱量を加える必要がある。したがって、不可逆過程を断熱過程とした場合は、
$$dS\gt 0$$
となり、断熱過程(外部と熱のやりとりが無い場合)においてエントロピーは必ず増加すると言える。このエントロピー増大の法則を熱力学第二法則と言う。
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