共変微分とゲージ理論

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電磁場と相互作用する量子力学

古典力学において、電磁場中を運動する荷電粒子のハミルトニアンは、自然単位系(\(c=\hbar=1\))で

$$H=\frac{1}{2m}\left(\boldsymbol{p}-q\boldsymbol{A}\right)^2+qV$$

となるので、量子力学のいつもの演算子の書き換え

$$\begin{eqnarray}
E&→&i\frac{\partial}{\partial t}\\
\boldsymbol{p}&→&-i\boldsymbol{\nabla}
\end{eqnarray}$$

を行うと、

$$\left(i\frac{\partial}{\partial t}-qV\right)\psi=\frac{1}{2m}(-i\boldsymbol{\nabla}-q\boldsymbol{A})^2\psi$$

となる。ここで、自由粒子のシュレディンガー方程式

$$i\frac{\partial}{\partial t}\psi=-\frac{1}{2m}\boldsymbol{\nabla}^2\psi$$

と比べると、量子力学において、電磁場中の荷電粒子の運動を記述する場合は、演算子を

$$\boxed{\begin{eqnarray}
\frac{\partial}{\partial t}\rightarrow D_t&\equiv&\frac{\partial}{\partial t}+iqV\\
\boldsymbol{\nabla}\rightarrow \boldsymbol{D}_\boldsymbol{x}&\equiv&\boldsymbol{\nabla}-iq\boldsymbol{A}
\end{eqnarray}}$$

と書き換えれば良いことがわかる。このような書き換えを共変微分と言い、1926年にシュレディンガーによって示された。

量子力学のゲージ変換

上記で求めた電磁場を含む波動方程式は、電磁気学で考えたゲージ変換

$$\begin{eqnarray}
\boldsymbol{A}\rightarrow\boldsymbol{A}’&=&\boldsymbol{A}+\boldsymbol{\nabla}\chi\\
V\rightarrow V’&=&V-\frac{\partial\chi}{\partial t}
\end{eqnarray}$$

が適用できる筈である。(もしそうでないのなら、量子力学では電磁ポテンシャルの性質が変わってしまう)ただし、量子力学でそのままゲージ変換しても式は成り立たない。結論から書くと、波動関数も

$$\psi\rightarrow\psi’=e^{iq\chi}\psi$$

の様に変換を受ける。ちなみに\(\chi\)は、変数が\(\boldsymbol{x}\)と\(t\)の任意の関数である。この変換では、位相が変わるだけなので、各時空点毎には、実際の物理は変わらない。ゲージ変換とあわせて波動方程式に適用してみると、

$$\left\{i\frac{\partial}{\partial t}-q\left(V-\frac{\partial\chi}{\partial t}\right)\right\}e^{iq\chi}\psi=\frac{1}{2m}\{-i\boldsymbol{\nabla}-q(\boldsymbol{A}+\boldsymbol{\nabla}\chi)\}^2e^{iq\chi}\psi$$

となり、さらに

$$\begin{eqnarray}
左辺&=&-q\frac{\partial \chi}{\partial t}e^{iq\chi}\psi+ie^{iq\chi}\frac{\partial}{\partial t}\psi-q\left(V-\frac{\partial\chi}{\partial t}\right)e^{iq\chi}\psi\\
&=&e^{iq\chi}\left(i\frac{\partial}{\partial t}-qV\right)\psi\\
右辺&=&\frac{1}{2m}\{-i\boldsymbol{\nabla}-q(\boldsymbol{A}+\boldsymbol{\nabla}\chi)\}\{q(\boldsymbol{\nabla}\chi)e^{iq\chi}\psi-ie^{iq\chi}\boldsymbol{\nabla}\psi-q(\boldsymbol{A}+\boldsymbol{\nabla}\chi)e^{iq\chi}\psi\}\\
&=&\frac{1}{2m}\{-i\boldsymbol{\nabla}-q(\boldsymbol{A}+\boldsymbol{\nabla}\chi)\}e^{iq\chi}(-i\boldsymbol{\nabla}-q\boldsymbol{A})\psi\\
&=&\frac{1}{2m}e^{iq\chi}(-i\boldsymbol{\nabla}-q\boldsymbol{A})^2\psi
\end{eqnarray}$$

となる。期待した通り、変換前と同じ物理を表す式となっている。以上、まとめると、量子力学でのゲージ変換は、

$$\boxed{\begin{eqnarray}
\boldsymbol{A}\rightarrow\boldsymbol{A}’&=&\boldsymbol{A}+\boldsymbol{\nabla}\chi\\
V\rightarrow V’&=&V-\frac{\partial\chi}{\partial t}\\
\psi\rightarrow\psi’&=&e^{iq\chi} \psi
\end{eqnarray}}$$

となる。

ゲージ理論

すべての時空点において同じ変換が行われる場合、例えば平行移動や回転に対して、物理法則は変わらない。当たり前のことだが、このようにすべての時空点を一斉に変換することを大局的変換と言う。量子力学では、全体の位相を一斉に回転させても何も変化は無いので、これも大局的変換の一種である。それに対して、ゲージ変換で行われる

$$\psi\rightarrow\psi’=e^{iq\chi}\psi$$

は、\(\chi(\boldsymbol{x},t)\)であるから、ある時空点の位相のみを変換してしまい、この変換だけを行った場合、時空全体の物理の式は変わってしまう。このようにある時空点のみ変換することを局所的変換と言う。それでは、どうすればこのような局所的変換のもとでも物理法則を不変に保つことができるだろうか?これは先程の議論を逆転し、共変微分を導入し、局所的変換と同時に電磁場を含めたゲージ変換を行えば良いということなる。このように局所的変換においても物理法則が成り立つように相互作用の力は導入されるという考え方をケージ理論と言い、ゲージ理論により導入される力をゲージ場と言う。 物理法則は、①対称性、②保存則、③力学の3つが密接に関係している。①対称性と②保存則の関係は、ネーターの定理で示される。②保存則と③力学の関係は、例えば粒子の電荷を求めるのに保存則で考えても力学の振る舞いで考えても同じ結果となることからわかる。そして①対称性(局所的変換)と③力学の関係がゲージ理論となる。

共変形式

共変微分とゲージ変換は、そのまま共変形式で書くことができる。共変形式の共変微分は、

$$\boxed{\partial_\mu\rightarrow D_\mu\equiv\partial_\mu+iqA_\mu}$$

となり、共変形式のゲージ変換は、

$$\boxed{\begin{eqnarray}
A_\mu\rightarrow A’_\mu&=&A_\mu-\partial_\mu\chi\\
\psi\rightarrow\psi’&=&e^{iq\chi}\psi
\end{eqnarray}}$$

となる。実際に相対論的量子力学で、共変微分が成り立つかは、次に確かめる。

相対論的量子力学のゲージ理論

クライン-ゴルドン方程式への適用

クライン-ゴルドン方程式にゲージ理論を適用することを考える。自由粒子のクライン-ゴルドン方程式

$$(\square+m^2)\phi=0$$

に、局所的変換を行うと、変換前と変換後で式の形が変わってしまう。そこで局所変換しても式の形が変わらないように電磁場を導入することを考える。結論から書くと、やはり共変微分を使って導入すれば上手くいく。実際に共変微分を適用したクライン-ゴルドン方程式は、

$$\{(\partial_\mu+iqA_\mu)(\partial^\mu+iqA^\mu)+m^2\}\phi=0$$

であるから

$$(\square+m^2)\phi+\{iq(\partial_\mu A^\mu+A_\mu\partial^\mu)-q^2 A^2\}\phi=0$$

となる。更にゲージ変換を適用すると

$$\begin{eqnarray}
第1項&=&(\square+m^2)e^{iq\chi}\phi\\
&=&\partial_\mu\{iq(\partial^\mu\chi)e^{iq\chi}\phi+e^{iq\chi}\partial^\mu\phi\}+m^2e^{iq\chi}\phi\\
&=&\color{red}iq\partial_\mu\{(\partial^\mu\chi)e^{iq\chi}\phi\}+iq(\partial_\mu\chi)e^{iq\chi}\partial^\mu\phi\color{blue}+e^{iq\chi}(\square+m^2)\phi\color{black}\\
第2項&=&[iq\{\partial_\mu (A^\mu-\partial^\mu\chi)+(A_\mu-\partial_\mu\chi)\partial^\mu\}-q^2 (A_\mu-\partial_\mu\chi)(A^\mu-\partial^\mu\chi)]e^{iq\chi}\phi\\
&=&iq\partial_\mu(A^\mu e^{iq\chi}\phi)-iq\partial_\mu\{(\partial^\mu\chi)e^{iq\chi}\phi\}+iqA_\mu\partial^\mu(e^{iq\chi}\phi)-iq(\partial_\mu\chi)\partial^\mu(e^{iq\chi}\phi)-q^2\{A^2-A_\mu\partial^\mu\chi-(\partial_\mu\chi)A^\mu+(\partial_\mu\chi)(\partial^\mu\chi)\}e^{iq\chi}\phi\\
&=&-q^2A^\mu(\partial_\mu\chi)e^{iq\chi}\phi\color{blue}+iqe^{iq\chi}\partial_\mu(A^\mu\phi)\color{red}-iq\partial_\mu\{(\partial^\mu\chi)e^{iq\chi}\phi\}\color{black}-q^2A_\mu(\partial^\mu\chi)e^{iq\chi}\phi\color{blue}+iqA_\mu e^{iq\chi}\partial^\mu\phi\color{black}+q^2(\partial_\mu\chi)(\partial^\mu\chi)e^{iq\chi}\phi\color{red}-iq(\partial_\mu\chi)e^{iq\chi}\partial^\mu\phi\color{black}-q^2\{\color{blue}A^2\color{black}-A_\mu\partial^\mu\chi-(\partial_\mu\chi)A^\mu+(\partial_\mu\chi)(\partial^\mu\chi)\}e^{iq\chi}\phi\\
&=&\color{red}-iq\partial_\mu\{(\partial^\mu\chi)e^{iq\chi}\phi\}-iq(\partial_\mu\chi)e^{iq\chi}\partial^\mu\phi\color{blue}+e^{iq\chi}\{iq(\partial_\mu A^\mu+A_\mu\partial^\mu)-q^2 A^2\}\phi\color{black}
\end{eqnarray}$$

となり、確かに共変微分によって電磁場を導入すると、局所変換においても式の形は変わらない。共変微分を適用したクライン-ゴルドン方程式より、電磁場との相互作用項は、

$$\boxed{V_{KG}=iq(\partial_\mu A^\mu+A_\mu\partial^\mu)-q^2 A^2}$$

となる。

ディラック方程式への適用

共変微分を適用したディラック方程式は、

$$\{i\gamma^\mu(\partial_\mu+iqA_\mu)-m\}\psi=0$$

であるから

$$(i\gamma^\mu\partial_\mu-m)\psi-q\gamma^\mu A_\mu\psi=0$$

となる。更にゲージ変換を適用すると

$$\begin{eqnarray}
第1項&=&(i\gamma^\mu\partial_\mu-m)e^{iq\chi}\psi\\
&=&-q\gamma^\mu(\partial_\mu\chi)e^{iq\chi}\psi+e^{iq\chi}(i\gamma^\mu\partial_\mu-m)\psi\\
第2項&=&-q\gamma^\mu(A_\mu-\partial_\mu\chi)e^{iq\chi}\psi\\
&=&q\gamma^\mu(\partial_\mu\chi)e^{iq\chi}\psi-e^{iq\chi}q\gamma^\mu A_\mu\psi
\end{eqnarray}$$

となり、やはり共変微分によって電磁場を導入すると、局所変換においても式の形は変わらない。共変微分を適用したディラック方程式より、電磁場との相互作用項は、

$$\boxed{V_D=-q\gamma^\mu A_\mu}$$

となる。

場の量子論のゲージ理論

場の量子論では、ラグランジアンから考える。実スカラー場は電荷を持たないので、電磁場と相互作用しない。

複素スカラー場への適用

複素スカラー場のラグランジアン

$$\mathscr{L}=\partial_\mu\phi^\dagger\partial^\mu\phi-m^2\phi^\dagger\phi$$

に共変微分を適用する。1点注意すべきは、複素スカラー場のラグランジアンは、実数でなければならないので、最初の\(\partial_\mu\)の共変微分も複素共役でなければならないという意味を持つ。しだがって、符号に注意して共変微分を適用すると、

$$\begin{eqnarray}
\mathscr{L}&=&(\partial_\mu-iqA_\mu)\phi^\dagger(\partial^\mu+iqA^\mu)\phi-m^2\phi^\dagger\phi\\
&=&\partial_\mu\phi^\dagger\partial^\mu\phi-m^2\phi^\dagger\phi+(\partial_\mu\phi^\dagger)iqA^\mu\phi-iqA_\mu\phi^\dagger(\partial^\mu\phi)+q^2A_\mu\phi^\dagger A^\mu\phi
\end{eqnarray}$$

となる。したがって、電磁波との相互作用項は、

$$\boxed{\mathscr{L}_{int}=-iq(\phi^\dagger\partial^\mu\phi-(\partial^\mu\phi^\dagger)\phi)A_\mu+q^2A_\mu A^\mu\phi^\dagger\phi}$$

となる。更に、求めた\(\mathscr{L}_{int}\)をラグランジュ方程式に代入すると、

$$\frac{\partial\mathscr{L}_{int}}{\partial\phi^\dagger}-\partial_\mu\frac{\partial\mathscr{L}_{int}}{\partial(\partial_\mu\phi^\dagger)}=-iq(\partial_\mu A^\mu+A_\mu\partial^\mu)\phi+q^2 A^2\phi=0$$

となり、先程求めたクライン-ゴルドン方程式の相互作用項と同じであることがわかる。

スピノル場への適用

スピノル場のラグランジアン

$$\mathscr{L}=\bar{\psi}(i\partial\hspace{-0.5em}/-m)\psi$$

に共変微分を適用すると、

$$\begin{eqnarray}
\mathscr{L}&=&\bar{\psi}\{i\gamma^\mu(\partial_\mu+iqA_\mu)-m\}\psi\\
&=&\bar{\psi}(i\partial\hspace{-0.5em}/-m)\psi-q\bar{\psi}\gamma^\mu\psi A_\mu
\end{eqnarray}$$

となる。したがって、電磁場との相互作用項は、

$$\boxed{\mathscr{L}_{int}=-q\bar{\psi}\gamma^\mu\psi A_\mu}$$

となる。更に、求めた\(\mathscr{L}_{int}\)をラグランジュ方程式に代入すると、

$$\frac{\partial\mathscr{L}_{int}}{\partial\bar{\psi}}-\partial_\mu\frac{\partial\mathscr{L}_{int}}{\partial(\partial_\mu\bar{\psi})}=-q\gamma^\mu A_\mu\psi=0$$

となり、先程求めたディラック方程式の相互作用項と同じであることがわかる。

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