生成・消滅演算子

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はじめに

量子化された調和振動子のエネルギー固有値は、\(\hbar\omega\)の整数倍にとびとびの(離散的な)値を持つ特徴がある。この事からすぐに、フーリエ展開した調和振動子のように振る舞う波を「エネルギー\(\hbar\omega\)の粒子が\(n\)個ある」と言い換えて、電磁波の粒子性(光子)を研究することに応用されていく。そして、ディラックが考えた生成・消滅演算子を使った計算方法は、その粒子性を明確にする。エネルギーの固有関数に演算子を掛けると、あたかも粒子を増減させるように、エネルギー準位を上下させた固有関数を簡単に表すことができる。

調和振動子の量子化と生成・消滅演算子

量子化前の調和振動子のハミルトニアン\(H\)は、

$$H=\frac{p^2}{2m}+\frac{1}{2}m\omega^2x^2$$

であるが、これを\(a^2+b^2=(a-ib)(a+ib)\)を利用して因数分解してみると、

$$H=\hbar\omega\left\{\sqrt\frac{m\omega}{2\hbar}\left(x-\frac{i}{m\omega}p\right)\right\}\left\{\sqrt\frac{m\omega}{2\hbar}\left(x+\frac{i}{m\omega}p\right)\right\}$$

となる。ここで、\(x\)と\(p\)を演算子に置き換えて量子化し、生成演算子\(\hat{a}^\dagger\)と消滅演算子\(\hat{a}\)を

$$\begin{eqnarray}
\hat{a}^\dagger&≡&\sqrt\frac{m\omega}{2\hbar}\left(\hat{x}-\frac{i}{m\omega}\hat{p}\right)\\
\hat{a}&≡&\sqrt\frac{m\omega}{2\hbar}\left(\hat{x}+\frac{i}{m\omega}\hat{p}\right)
\end{eqnarray}$$

と定義して\(\hbar\omega\hat{a}^\dagger\hat{a}\)を計算してみると、

$$\begin{eqnarray}
\hbar\omega\hat{a}^\dagger\hat{a}&=&\hbar\omega\left\{\frac{m\omega}{2\hbar}\left(\hat{x}^2+\frac{i}{m\omega}\hat{x}\hat{p}-\frac{i}{m\omega}\hat{p}\hat{x}+\frac{1}{m^2\omega^2}\hat{p}^2\right)\right\}\\
&=&\frac{\hat{p}^2}{2m}+\frac{1}{2}m\omega^2\hat{x}^2+\frac{1}{2}i\omega[\hat{x},\hat{p}]\\
&=&\hat{H}-\frac{1}{2}\hbar\omega
\end{eqnarray}$$

となるから、量子化された調和振動子のハミルトニアン\(\hat{H}\)は、生成・消滅演算子を使って

$$\fbox{\(\hat{H}=\hbar\omega\left(\hat{a}^\dagger\hat{a}+\frac{1}{2}\right)\)}$$

と表すことができる。量子化前の式と比べると、\(\frac{1}{2}\)の項が余分に出てきているが、これは途中式を見れば明らかなように\(\hat{x}\)と\(\hat{y}\)の交換関係から出てきていて、古典論では0になる。

個数演算子

個数演算子\(\hat{N}\)を

$$\fbox{\(\hat{N}≡\hat{a}^\dagger\hat{a}\)}$$

と定義する。公式\((\hat{a}\hat{b})^\dagger=\hat{b}^\dagger\hat{a}^\dagger\)を使うと、

$$\hat{N}^\dagger=(\hat{a}^\dagger\hat{a})^\dagger=\hat{a}^\dagger(\hat{a}^\dagger)^\dagger=\hat{a}^\dagger\hat{a}=\hat{N}$$

であるから、\(\hat{N}\)はエルミート演算子で、固有値を\(n\)とすれば、\(|n\rangle\)で基底を取ることができる。

$$\hat{N}|n\rangle=n|n\rangle$$

調和振動子のハミルトニアンは、

$$\begin{eqnarray}
\hat{H}|n\rangle&=&\hbar\omega\left(\hat{N}+\frac{1}{2}\right)|n\rangle\\
&=&\hbar\omega\left(n+\frac{1}{2}\right)|n\rangle
\end{eqnarray}$$

となり、ハミルトニアンの固有値を求めることは、個数演算子の固有値\(n\)を求めることと同じと言える。生成・消滅演算子を使わないで量子化した場合と比べると、\(n\)は0または正の整数となるから、調和振動子のエネルギーは\(\hbar\omega\)が\(n\)個分と数えることができる。(\(\frac{1}{2}\)の項はエネルギーの基準値を示すだけなので無視する)

生成・消滅演算子の交換関係

$$\begin{eqnarray}
[\hat{a},\hat{a}^\dagger]&=&\hat{a}\hat{a}^\dagger-\hat{a}^\dagger\hat{a}\\
&=&\frac{m\omega}{2\hbar}\left(\hat{x}^2-\frac{i}{m\omega}\hat{x}\hat{p}+\frac{i}{m\omega}\hat{p}\hat{x}+\frac{1}{m^2\omega^2}\hat{p}^2\right)-\frac{m\omega}{2\hbar}\left(\hat{x}^2+\frac{i}{m\omega}\hat{x}\hat{p}-\frac{i}{m\omega}\hat{p}\hat{x}+\frac{1}{m^2\omega^2}\hat{p}^2\right)\\
&=&-\frac{i}{\hbar}(\hat{x}\hat{p}-\hat{p}\hat{x})\\
&=&-\frac{i}{\hbar}\cdot i \hbar\\
&=&1
\end{eqnarray}$$

生成・消滅演算子の役割

\(\hat{a}\hat{a}^\dagger-\hat{a}^\dagger\hat{a}=1\)の関係を使って\(\hat{N}\hat{a}^\dagger\)を計算してみると、

$$\begin{eqnarray}
\hat{N}\hat{a}^\dagger|n\rangle&=&\hat{a}^\dagger\hat{a}\hat{a}^\dagger|n\rangle\\
&=&\hat{a}^\dagger(\hat{a}^\dagger\hat{a}+1)|n\rangle\\
&=&(n+1)\hat{a}^\dagger|n\rangle
\end{eqnarray}$$

となる。

$$\hat{N}|n+1\rangle=(n+1)|n+1\rangle$$

と比較すれは、

$$\fbox{\(\hat{a}^\dagger|n\rangle=|n+1\rangle\)}$$

となる。\(\hat{a}^\dagger\)が\(n\)を1つ増やす役割を果たしており、生成演算子の名称の由来になっている。同様に\(\hat{N}\hat{a}\)を計算してみると、

$$\begin{eqnarray}
\hat{N}\hat{a}|n\rangle&=&\hat{a}^\dagger\hat{a}\hat{a}|n\rangle\\
&=&(\hat{a}\hat{a}^\dagger-1)\hat{a}|n\rangle\\
&=&\hat{a}(\hat{a}^\dagger\hat{a}-1)|n\rangle\\
&=&(n-1)\hat{a}|n\rangle
\end{eqnarray}$$

となるので、

$$\fbox{\(\hat{a}|n\rangle=|n-1\rangle\)}$$

となる。\(\hat{a}\)が\(n\)を1つ減らす役割を果たしており、消滅演算子の名称の由来になっている。

さらに

$$\hat{N}\hat{a}|0\rangle=n\hat{a}|0\rangle$$

のとき、\(n\)が0または正の整数のまま矛盾なく成り立つためには、

$$\fbox{\(\hat{a}|0\rangle=0\)}$$

となる。

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