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はじめに
\(e\)の電荷を持つ1つの陽子と、\(-e\)の電荷を持つ1つの電子からなる水素原子は、シュレディンガー方程式で解析的に解ける数少ない例である。量子力学の2体問題は、古典力学同様、換算質量の1粒子の運動として扱って良いことがわかっている。
極座標表示のシュレディンガー方程式
水素原子の電子の波動関数を考える。波動関数は定常波で存在する。シュレディンガー方程式
$$E\psi=-\frac{\hbar^2}{2m}\boldsymbol{\nabla}^2\psi+V\psi$$
を微分演算子\(\boldsymbol{\nabla}^2\)の極座標表示を使って表すと
$$\fbox{\(E\psi=-\frac{\hbar^2}{2m}\left[\frac{1}{r^2}\frac{\partial}{\partial r}\left(r^2\frac{\partial}{\partial r}\right)+\frac{1}{r^2\sin\theta}\frac{\partial}{\partial\theta}\left(\sin\theta\frac{\partial}{\partial\theta}\right)+\frac{1}{r^2\sin^2\theta}\frac{\partial^2}{\partial\phi^2}\right]\psi+V(r)\psi\)}$$
となる。
変数分離
ここで、極座標表示のシュレディンガー方程式を
$$\psi(r,\theta,\phi)=R(r)Y(\theta,\phi)$$
のように変数分離することを考える。両辺に\(2mr^2/\hbar^2\)を掛けて変数が別れるように変形すると、
$$\left[\frac{\partial}{\partial r}\left(r^2\frac{\partial}{\partial r}\right)+\frac{2mr^2}{\hbar^2}(E-V(r))\right]\psi=-\left[\frac{1}{\sin\theta}\frac{\partial}{\partial\theta}\left(\sin\theta\frac{\partial}{\partial\theta}\right)+\frac{1}{\sin^2\theta}\frac{\partial^2}{\partial\phi^2}\right]\psi$$
となる。そのまま\(\psi=R(r)Y(\theta,\phi)\)を代入して、両辺を\(RY\)で割ると
$$\frac{1}{R(r)}\frac{\partial}{\partial r}\left(r^2\frac{\partial R(r)
}{\partial r}\right)+\frac{2mr^2}{\hbar^2}(E-V(r))=-\frac{1}{Y(\theta,\phi)}\left[\frac{1}{\sin\theta}\frac{\partial}{\partial\theta}\left(\sin\theta\frac{\partial Y(\theta,\phi)}{\partial\theta}\right)+\frac{1}{\sin^2\theta}\frac{\partial^2 Y(\theta,\phi)}{\partial\phi^2}\right]$$
となる。両辺を\(\lambda\)と置けば、
$$\fbox{\(\begin{eqnarray}
\frac{d}{d r}\left(r^2\frac{d R(r)
}{d r}\right)+\frac{2mr^2}{\hbar^2}(E-V(r))R(r)&=&\lambda R(r)\\
\frac{1}{\sin\theta}\frac{\partial}{\partial\theta}\left(\sin\theta\frac{\partial Y(\theta,\phi)}{\partial\theta}\right)+\frac{1}{\sin^2\theta}\frac{\partial^2 Y(\theta,\phi)}{\partial\phi^2}&=&-\lambda Y(\theta,\phi)
\end{eqnarray}\)}$$
となり、変数を分けた2つの式ができる。さらに、
$$Y(\theta,\phi)=\Theta(\theta)\Phi(\phi)$$
のように変数分離すること考える。両辺に\(\sin^2\theta\)を掛けて変数が別れるように変形すると、
$$\sin\theta\frac{\partial}{\partial\theta}\left(\sin\theta\frac{\partial Y(\theta,\phi)}{\partial\theta}\right)+\lambda\sin^2\theta Y(\theta,\phi)=-\frac{\partial^2 Y(\theta,\phi)}{\partial\phi^2}$$
となる。\(Y=\Theta(\theta)\Phi(\phi)\)を代入して、両辺を\(\Theta\Phi\)で割ると、
$$\frac{1}{\Theta(\theta)}\sin\theta\frac{\partial}{\partial\theta}\left(\sin\theta\frac{\partial \Theta(\theta)}{\partial\theta}\right)+\lambda\sin^2\theta=-\frac{1}{\Phi}\frac{\partial^2 \Phi(\phi)}{\partial\phi^2}$$
となる。両辺を\(m^2\)(質量では無い)と置けば、
$$\begin{eqnarray}
\frac{1}{\sin\theta}\frac{d}{d\theta}\left(\sin\theta\frac{d\Theta(\theta)}{d\theta}\right)+\left(\lambda-\frac{m^2}{\sin^2\theta}\right)\Theta(\theta)&=&0\\
\frac{d^2 \Phi(\phi)}{d\phi^2}+m^2\Phi(\phi)&=&0
\end{eqnarray}$$
となる。
球面調和関数
変数を分けた式のうち、\(Y(\theta,\phi)\)の式の解は、方向を変数とした関数で、球面調和関数と言う。計算が大変なので結論のみ書くと、
$$Y_l^m(\theta,\phi)=(-1)^{(m+|m|)/2}\sqrt{\frac{2l+1}{4\pi}\frac{(l-|m|)!}{(l+|m|)!}}P_l^{|m|}(\cos\theta)e^{im\phi}$$
となる。\(l\)と\(m\)は整数で、\(l\geq |m|\)(これにより\(l\)は0または正)、\(\lambda=l(l+1)\)となる。\(P_l^{|m|}\)はルジャンドル陪関数と言い、
$$P_l^m(x)=(1-x^2)^{\frac{|m|}{2}}\frac{d^{|m|}P_l(x)}{dx^{|m|}}$$
となり、更に\(P_l(x)\)は、ルジャンドル多項式と言い、
$$P_l(x)=\frac{1}{2^l l!} \frac{d^l}{dx^l}(x^2-1)^l$$
となる。とても複雑で、式を見ただけでは何を表しているのかまったく検討がつかない。イメージでは、球体の表面が定常波で振動していて、\(l\)や\(m\)が大きいほど表面の波が細かくなる。2次元の円の定常波の場合、円周が波長の整数倍になっていることに対応する。(どちらも0の場合は、ただの球体が波打つことなく存在し、\(\psi\)の時間変化によって、球体が大きくなったり小さくなったりする)よくある葉っぱの形の図は、波の振幅の2乗で、電子の存在確率を表しているので、球面調和関数のイメージとは違う。葉っぱが原点から伸びているのは、原点から特定の方向は振動していない点があり、波の節がある。その方向から少しでもズレれば振幅が存在し、葉っぱの一番大きな方向に波の腹がある。また、球面調和関数は球体の波の形のみを表し、原子核からの距離は考慮されていない。
動径方程式
変数を分けたもう一つの式\(R(r)\)は、\(\lambda=l(l+1)\)及び、クーロンポテンシャル\(V=-e^2/r\)より、
$$ER(r)=-\frac{\hbar^2}{2mr^2}\frac{d}{d r}\left(r^2\frac{\partial R(r)
}{\partial r}\right)+\left\{-\frac{e^2}
{r}+\frac{l(l+1)\hbar^2}{2mr^2}\right\}R(r)$$
となる。この式の解も計算が大変なので結論のみ書くと、
$$R_{nl}(r)=-\sqrt{\left(\frac{2}{na_0}\right)^3\frac{(n-l-1)!}{2n\{(n+l)!\}^3}}e^{-\frac{1}{2}\rho}\rho^l L_{n+l}^{2l+1}(\rho)$$
となる。\(n\)は整数で、\(n\geq l+1\)(これにより\(n\)は正)となる。また、\(a_0\)はボーア半径、\(\rho=2r/na_0\)である。\(L_{n+l}^{2l+1}\)はラゲールの陪多項式と言い、
$$L_{n+l}^{2l+1}(x)=\frac{d^{2l+1}}{dx^{2l+1}}\left\{e^x\frac{d^{n+l}}{dx^{n+l}}(x^{n+l}e^{-x})\right\}$$
となる。この解も複雑で、式を見ただけでは何を表しているのかまったく検討がつかない。イメージでは、原点(原子核の中心)から無限遠に波形が伸びていて、確率を計算したときに一番大きくなるところが、ちょうど電子の軌道半径になっている。\(n\)が大きいほど、電子の軌道半径が大きくなる。電子殻のK殻、L殻、M殻、…と言うのは、\(n\)が1、2、3、…に対応する。軌道半径と言っても、あくまで確率が一番大きいところ指しているので、軌道半径もまた、確定値ではない。
電子の波動方程式
水素原子の電子の波動方程式は、
$$\psi=R_{nl}(r)Y_l^m(\theta,\phi)$$
となり、\(n,l,m\)の3つの整数によって波形が決まる。\(n\)を主量子数、\(l\)を方位量子数、\(m\)を磁気量子数と言う。それぞれの関係から、\(n,l,m\)の組み合わせは、
主量子数n | 方位量子数l | 磁気量子数m |
---|---|---|
1(K殻) | 0(1s軌道) | 0 |
2(L殻) | 0(2s軌道) | 0 |
1(2p軌道) | -1 | |
0 | ||
1 | ||
3(M殻) | 0(3s軌道) | 0 |
1(3p軌道) | -1 | |
0 | ||
1 | ||
2(3d軌道) | -2 | |
-1 | ||
0 | ||
1 | ||
2 |
となる。同様に、もっと大きい数も続いていき、電子殻には、\(n^2\)個の波動関数があるのがわかる。ところで、水素原子だけでなく一般的な原子にも応用し、元素の周期律から最外殻の電子の個数を予想すると、それぞれの波動関数には、最大2つの電子が入ることになる。つまり、電子殻には\(2n^2\)個の電子が入る。1つの波動関数に2つの電子が入ることができるのは、電子には上下のスピンの自由度があるためである。
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